ニワトリを飼育したら地域の未利用資源が集まってきた話
「なんでニワトリを事業にしようと思ったんですか?」と質問されることが多くあります。原体験は2020年からはじめた家庭養鶏です。自宅庭でニワトリを飼育しはじめたことでニワトリの持つポテンシャルにのめり込んでしまい、事業として養鶏をはじめました。
ひよこ2羽から家庭養鶏をスタート
2015年に西粟倉村に移住後、趣味として狩猟や家庭菜園に取り組んでいました。それらの延長で食材自給の手段としてニワトリに興味を持っていました。しかし有精卵を孵化させるのはハードルが高いなと長年尻込みしていました。
たまたま知人が家庭養鶏をはじめるべく雛をまとめて購入したため、うち2羽を譲ってくれました。2020年に岡崎おうはんのひよこ(初生雛)2羽で家庭養鶏がスタートしました。
2020-2024年の4年間で岡崎おうはん・名古屋コーチン・烏骨鶏・アイガモ…と40羽以上を飼育してきました。有精卵を孵化させ、ひよこを育て、たまごを収穫し、たまごを産まなくなった雌や肉が付いた雄は屠殺して肉を食べる…というサイクルを回しています。
ニワトリが毎日2-3個のたまごを産めば夫婦2人暮らしでは十分な量です。スーパーマーケットで卵を買うことは一切なくなりました。
ニワトリによって地域の未利用資源が可視化された
ニワトリを飼育しはじめたことで面白い出来事が起こりました。「くず米が1袋分あるからニワトリの餌にせんか?」「畑に余った白菜は刈り取ってニワトリの餌にしてもいいぞ」「籾殻が余っとるからニワトリの寝床に使え」村内の農家さんや知人がさまざまなものをお裾分けしてくれるようになったのです。捨てるのはもったいないけど販売するほどの品質やボリュームはないものです。
またコイン精米機では米糠が無料で手に入ります。春夏の草刈り後の青草はニワトリが喜んで食べます。生ごみとして発生する野菜の皮や魚の内臓も大喜びして食べてくれます。
家庭養鶏をはじめたばかりの頃は杓子定規にホームセンターで配合飼料を毎月購入していましたが、その必要もなくなりました。気づけば地域の未利用資源を飼料化する家庭養鶏が成立していたのでした。
ニワトリを起点に未利用資源がめぐる経済を実現する
家庭養鶏単位ではありますが、生ごみを減らしつつ未利用資源を飼料化できるようになりました。そして、このモデルをスケールさせれば地域の生業にできるのではないかと考えはじめます。西粟倉村では25年以上前に地鶏生産に取り組んだ時期がありましたが、現在は鶏卵や鶏肉の生産者はいません。
山間部の耕作放棄地を再生して養鶏場にする。間伐材を利用した木造鶏舎を建てる。地域の未利用資源を飼料としてニワトリに給餌する。季節や旬を食べたニワトリが新鮮でおいしいたまごを産む。たまごを産まなくなったニワトリは鶏肉として販売する。ニワトリの糞は肥料として田畑にすき込み米や野菜を育てる。販売できないものは飼料として給餌する。飼料は狩猟の餌としても活用する。自分たちが捕獲した鹿猪を解体精肉して販売する。
都市圏に住むお客さまに西粟倉村の季節の食材を定期購入で送り味わってもらう。集落内にはショップや飲食店、宿泊施設が点在し、足を運んでくれたお客さまが徒歩圏内で里山の暮らしを体験できる。ニワトリの解体体験は老若男女を問わず素晴らしい自然教育コンテンツになりうる。利益の一部で田畑や山林を購入しながらお客さまと一緒に風景を守り伝えていくことができるはず。地域の未利用資源がめぐることで経済もまたぐるぐるとまわる。
飼料化できる未利用資源や農地ポテンシャルを考慮すると売上10億円規模の事業には到底できそうにありません。しかし売上1億円の事業ならば積み上げる算段があります。売上1億円あれば10人以上の雇用を生み出せます。
捕らぬ狸の皮算用でしかありませんが、ニワトリを起点に地域の未利用資源がめぐる地域経済を実現すべく養鶏事業をはじめることにしました。満を持してはじめたというよりも居ても立っても居られずにはじめたのが正直な気持ちです。